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W杯出場を決めたセルビアの日本人コーチ・喜熨斗勝史がセルビアのW杯出場決定、ポルトガル撃破の舞台裏を激白!

記事の内容

異国の地で日本人の名誉を傷付けなくて良かった

 セルビア代表のドラガン・ストイコビッチ監督を右腕として支える日本人コーチがいる。“ピクシー”と名古屋でも共闘し、2010年のリーグ優勝に貢献した喜熨斗勝史だ。

 そんな喜熨斗氏がヨーロッパのトップレベルで感じたすべてを明かす連載「喜熨斗勝史の欧州戦記」。第8回は、ワールドカップ出場を決めたポルトガル戦の舞台裏ついて語ってもらった。
 
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 言葉が出ないという表現はこのことか、と実感しました。名古屋で指導していた10年にリーグ優勝した時も信じられませんでしたが、不思議な感覚でした。嬉しいのは事実。でも涙が出なかったんです。一夜明けて、自分が撮影した動画を見返した時に初めて涙が出たんです。

 11月14日。我々、セルビア代表は敵地でポルトガル代表に2-1の逆転勝利を収め、2大会連続のワールドカップ出場を決めました。私を招聘してくれたミスター(ドラガン・ストイコビッチ監督)の力になれたこと、欧州選手権出場を逃したセルビアサッカー界の威信を回復できたこと、そして異国の地で日本人の名誉を傷付けなくて良かったこと。世界最高峰の舞台に参加できて“こんなに素晴らしい世界があるんだ”と思えたこと。複雑な感情が交錯する出来事は、もう一生に1度あるかないか、そんな気持ちでいっぱいです。

 同勝点の状態で迎えたワールドカップ欧州予選最終戦ポルトガル戦。ワールドカップ本大会にストレートインするには、勝利しか道はありませんでした。だから前哨戦としての親善試合カタール戦(11日)から……いや、もっと言えば10月の同予選ルクセンブルク&アゼルバイジャン戦から準備は進めてきました。前回コラムでもお話ししたように、アゼルバイジャン戦ではカードコントロールをしました。警告を1枚持っている選手の出場時間を限定して、できる限りのベストメンバーをポルトガル戦にぶつけようと計算しました。

 アゼルバイジャン戦後は代表選手全員のクラブでの試合出場時間をチェック。確認可能なクラブには日々の練習時間も送ってもらいました。そうしたなか、出場時間が多い選手だと1か月で700分超。ミスターやコーチングスタッフと話してオーバーワーク気味の選手は、カタール戦を休養に充てることにしました。ほぼ万全の状態で大一番へ。でも“ほぼ”というとおり、裏では懸念もあったのです。
 
 実はFWアレクサンドル・ミトロヴィッチは、負傷を抱えたまま代表チームに合流していたのです。カタール戦はベンチにも入れていません。ポルトガル戦の前日練習で動けているのを確認して、やっと起用のメドが立ったくらい。恐らく45分間が限界の“ぶっつけ状態”。その彼が1-1の後半開始から出場して同45分に逆転弾を決めるのだから……あの瞬間、感極まっている選手がいたのも理解できます。でもアディショナルタイムは4分も残っていました。「まだ終わってないよ!」。両手を拡げるアレクサンドル・ミトロヴィッチの写真に映り込んでいますが、まさにその言葉を選手たちに伝えにいく間際です(笑)。

重圧との向き合い方が上手い。押しつぶされるのではなく楽しめる

 就任して9か月。セルビア代表とともに活動するなかで感じるのは、ミスターもそうですが重圧との向き合い方が上手い。押しつぶされるのではなく楽しめるのです。例えば収容人数6万5000人超のエスタディオ・ダ・ルスで行なわれたポルトガル戦。ウォーミングアップ時点で彼らはスタジアム全体から降り注ぐ野太いブーイングの嵐を分かっていました。ピッチに入る前は皆で「来るぞ、来るぞ」とワクワクしていました。そして、いざブーイングをされると「やっぱり来たぜ!」と逆にエネルギーに変えていました。試合前から悲壮感はなし。リラックスしていました。そのへんはミスターも一緒で、試合前の鼓舞も通常どおり。平常心で臨めるのも、このチームの強さのひとつだと思います。

 今、ベオグラードの街は活気に満ち溢れています。外食をすれば写真や握手を求められたりします。先日はBBCの取材も受けました。ポルトガルに向かう前のチャーター機内でアレクサンダル・ヴチッチ大統領から激励を受けたように、やはりサッカーへの関心度は高いです。日本からは三浦知良(横浜FC)に「歴史に残る偉業だ」と言ってもらいました。日本代表主将の(吉田)麻也からも連絡をもらったので“日本代表も頑張って”と返信しました。

 そう、次への戦いは始まっているのです。

 FIFAのインファンティーノ会長が明言していましたが4月1日にワールドカップ本大会の抽選会があります。予選グループのポッド分けが従来のFIFAランキングに則るならば、私たちは第2ポッドを勝ち取ることが当面の目標。まずは3月の親善試合2試合が重要になります。その後はワールドカップまでにどういう相手とのトレーニングマッチが良いのかも見極めていかないといけません。カタールの暑熱対策も頭に入れないといけません。また私自身の見識を広めるうえでギリシャやポーランドなど見たことがない国の視察も考えています。頭の中は切り替わっています。

 幸い22年末までの契約延長にサインすることができました。このチャンスを生かして、自分だけではなく、いつか日本サッカーに還元できるように、しっかりと仕事をしたいです。ひとつでも多くのことを吸収して今後、上を目指していく人にも経験を伝えていきたい。また1日、1日を大切に過ごしていきます。

 日本で応援してくださった皆さま、ありがとうございました。

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PROFILE
喜熨斗勝史
きのし・かつひと/1964年10月6日生まれ、東京都出身。日本体育大卒業後に教員を経て、東京大学大学院に入学した勤勉家。プロキャリアはないが関東社会人リーグでプレーした経験がある。東京都高体連の地区選抜のコーチや監督を歴任したのち、1995年にベルマーレ平塚でプロの指導者キャリアをスタート。その後は様々なクラブでコーチやフィジカルコーチを歴任し、2004年からは三浦知良とパーソナルトレーナー契約を結んだ。08年に名古屋のフィジカルコーチに就任。ストイコビッチ監督の右腕として10年にはクラブ初のリーグ優勝に貢献した。その後は“ピクシー”が広州富力(中国)の指揮官に就任した15年夏には、ヘッドコーチとして入閣するなど、計11年半ほどストイコビッチ監督を支え続けている。
指導歴
95年6月~96年:平塚ユースフィジカルコーチ
97年~99年:平塚フィジカルコーチ
99年~02年:C大阪フィジカルコーチ
02年:浦和フィジカルコーチ
03年:大宮フィジカルコーチ
04年:尚美学園大ヘッドコーチ/東京YMCA社会体育保育専門学校監督/三浦知良パーソナルコーチ
05年:横浜FCコーチ
06年~08年:横浜FCフィジカルコーチ(チーフフィジカルディレクター)
08年~14年:名古屋フィジカルコーチ
14年~15年8月:名古屋コーチ
15年8月~:広州富力トップチームコーチ兼ユースアカデミーテクニカルディレクター
19年11月~12月:広州富力トップチーム監督代行
21年3月~: セルビア代表コンディショニングコーチ

 

1:名無しさん@さかまと!

緊張やプレッシャーを快感に変える。
国民性もあるかとは思うが
平和な日本と数年前まで戦争してた国との違いが大きいでしょう。
大舞台でサッカーできる事の喜び、
彼らにはこれが前提にあるんでしょう。

 

2:名無しさん@さかまと!

疲労が溜まっていないか?を合理的に確認し、代表戦に確実にベストコンデイションで出る
そして難しい欧州戦を確実にものにする戦い方
日本の森保監督と「雲泥の差」を感じる
日本のように「疲れてへとへとの古参」を容赦なく連戦連戦でこき使う森保監督
わざわざ「負けに行っている」ようなもの

 

3:名無しさん@さかまと!

ピクシー、一時期 日本代表の噂みあったけど、かないませんでした
今の日本代表は天才肌が多い気がするからピクシー監督合うんじゃ無いかな〜
選手も学ぶ事が多いと思います

 

4:名無しさん@さかまと!

選手としてだけじゃなくて、コーチ、監督、レフェリーとして海外で経験を積むことの重要さ。
これがまだ日本には足りない!
喜熨さんみたいな人が沢山増えてくれれば、W杯をはじめとする大きな大会でも、もっと成果を出せると思います。

 

5:名無しさん@さかまと!

選手のコンディションを確認するくだり、我が国の代表チームも参考にすべき。吉田・遠藤ら一部選手を酷使しまくり、大一番の直前で疲労リタイアなんてことになりかねないよね。

 

6:名無しさん@さかまと!

アウェイでの逆転勝利xW杯出場決定おめでとうございます。ピクシー率いるセルビア 期待大! フィジカルコーチ頑張ってください。

 

7:名無しさん@さかまと!

現代サッカーにおいて、選手のコンディション調整はかなり大事。それを外国人が勤めるのは、本当に凄いよな。

 

8:名無しさん@さかまと!

日本代表との試合でも日本の攻撃の作り方は参考になると指導したと言ってたので
今回の予選突破は偉業でも有るけど素直に嬉しいですね。

 

9:名無しさん@さかまと!

論理的、客観的にコンディションを把握している。感情的で主観的な森保ジャパンとは大違い。

 

10:名無しさん@さかまと!

日本代表の監督に、このコンディションコントロールについての部分を読んで欲しい。

 

11:名無しさん@さかまと!

プレイオフでポルトガルと同組になる国もセルビアに続いてW杯出場を決めて欲しい

 

12:名無しさん@さかまと!

来年ワールドカップ後の日本代表はピクシーと喜熨斗さんコンビで頼みます!

 

13:名無しさん@さかまと!

2026のW杯への日本代表監督に是非招聘してほしい。

 

14:名無しさん@さかまと!

数年後ピクシーと共に日本代表で戦ってください。アホな会長がいますが…。

 

15:名無しさん@さかまと!

大変面白い記事でした。この経験をいつか日本に還元してほしいです

 

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